Tuesday, August 23, 2005

一人の友

ボーロパークに住んでいた時にイツホックのオフィス・Cで、なぜだったかこんなハシディックの話をしていたのを思い出しました。


ある町の裕福なユダヤの男はいつもたくさんの人に囲まれていて、とても友の多い自分をうれしく思っていました。

ラビはその男にこう言います。

「人は君に惹かれているのではなく、財産のある君に取り付きたいだけだよ。そして人とは、何も問題のない時には傍によって来るものだよ。でも君がトラブルに巻き込まれた時になって初めて誰が本当の友かを知るだろう。お金などの財産よりも千人の取り巻きよりも、一人の信頼できる友を持ちなさい。それが本当の君の財産となるでしょう」

男はラビに言いました。

「いえいえ、ラビよ。彼らはいつだって絶対に私を助けてくれるでしょう。私にはすでにこんなに人気者でたくさんの友人がいるのですよ。誰も裏切るわけがない。財産だってこれほど豊かなのですから足りないものなどありません」

ラビは男に言いました。

「それではこれから牛の血をあなたの手と衣服に塗り、
 助けてくれと言って友人の家々を回って見なさい。
 しかしほとんどの人はあなたを門前払いするでしょう」

男は笑いました。

「いいですとも、ラビ。やってみましょう。私は自身がありますからね」

男は牛の血で染まった衣服と手で町を歩き、笑顔で友人たちの家のドアを叩きました。しかし血の付いた男を見るなり友人たちは顔色を変えて、男を家に上げるどころか「見たこともない知らない人だ」と言ってドアを閉めました。また一軒、そしてまた一軒、男は門前払いを食らい、誰もが彼に背を向けました。

男はうなだれました。そして叩くドアはあと一軒だけが残っていました。男はいつもは相手にしない貧乏な家の男のドアを叩きました。

ドアが開いて、貧乏な男は血に塗れた男を見るなり辺りを見回すと、すぐにドアを閉めました。そう、男を家の中へと上げてから。

貧乏な男は居間の椅子に男を腰掛けさせると「友よ、どうしたのですか。どうしたらあなたを助けることが出来るのでしょうか」と心から男に問いかけました。

男は貧乏な男の手をとりました。

「私はなんと愚かだったのだろうか。助けを求める時に誰も彼も私を家に入れてくれるどころか冷たく門前払いだよ。ああ、ラビの仰るとおり、人というのはそんなものなのだったのか。千人の取り巻きや財産よりも、たった一人でも心から信頼できる友を持つことの価値を知ったよ」


今も昔も、本当に価値のあるものが迷わされてしまう。