Friday, September 17, 2004

monochromeな記憶 - 電車のホーム



Fラインの電車に乗ってしばらくすると
空中遊泳のような電車内の前方に
広い空とともにマンハッタンが見えてくる

もう少し遠くの高いビルたちを眺めていたいのに
電車はそんな気持ちを知ってか知らずか
すすすすっと地下へ潜ってイーストリバーを越えて
マンハッタンへと滑ってゆく

6番街の14丁目で電車を降りて
長い地下通路をひたすら歩いて乗り換えて
次の電車はアッパー・ウェストへと私を運んでゆく

ブルックリンとマンハッタンの電車の旅
顔 顔 顔 かぞえきれない偶然
駅 駅 駅 かぞえきれないストーリー

同じ駅のプラットホームで
毎日ギターを弾(はじ)いていた
痩せた長髪の歯の欠けた中年男

彼が全身で弾きだすディランは最高だった
ちょっとナザレのかの人に似ていた

ある昼下がりBoro Parkへの旅の途中
その日は立ち止まって聴いてみたかった

いつものように「ちょっと電車を待つ間」
なんてことじゃなくて「ちゃんと好きなだけ」 

ディランが打ちつけられる

彼とギターとがひとつになり
プラットホームの床にリズムを刻む
迷いsoulのまっすぐなpower
プラットホームの柱に寄りかかり
踏みしめる足のリズムの響きを感じていた


ポール

そんな名前だと言った


この駅で弾(ひ)きはじめたのはいつだったかなあ
もうずいぶん昔からいるんだな、昔さあ
子供の時にね、もらわれたんだ
実の両親も、ユダヤ人だったけどさ
育ての親はね、これまた立派なユダヤ人の医者でね
そこんちで大切に育ててくれたんだけどさ
感謝してるよ

だけどよ、俺はね、
ほら、歯も欠けちまってさ
ある時、ジーザスを見出したんだよ
それでさ、それからここにいるのさ


そしてまたその男
ポールはギターを弾(はじ)いた

4本目のFラインが滑りこんで来て
ざわめきがギターと私に割り込んだ

右へ左へと沢山の色の頭は無表情で早足で歩き出す
薄くなったポールの長い金色の髪が見え隠れして
「えいっ」と流れとともに電車に乗り込んだ

ドアが閉まりかけ頭たちが慌てて駆け込んでくる
途切れ途切れにプラットホームの床をディランが走る

「ガシャン」とドアが閉まり車内一杯に響く
ケタタマシイニューヨーク訛りのアナウンス

ポールとギターと踏みしめた足のリズムが
モノクロのモノトーンに
音のないテレビのように
何も誰も関係なく
電車の窓ガラスから勝手に流れ続ける

今も流れ続けるあの日の記憶