one shekelの夢
天使は行きかう人に
「スリハ(すみません)!」
元気よく声をかける。
ふわふわ巻き毛あか毛の女の子が
真っ白な光りの午後
階段通りに広げた敷物の横に立っている。
「スリハ!」
「はい、なんでしょう?」
着ているサマードレスも去年のものか
それとも下界に降りてくるのに慌てて誂えてきたのか、
少々、いやかなりピチピチだね。
なんだかちょっぴり太っちょな天使かな。
「なにかかいませんか?
おにんぎょうはどう?
イロのついたペンもあるよ」
使い古したおもちゃらしきものが
畳一枚分ほどの敷物の上に
ポンポンと並べてある。
「じゃぁ、その大きな貝殻はいくらです?」
「1シェケル!」
とても元気な天使。
「じゃあ、その貝殻を2つ、
くださいな。いくらですか?」
「・・・あっ!
2シェケル~!
うふふふふっ!」
大きな白い巻貝を受け取って
代わりに2シェケルを天使のぼっちゃりとした手に渡す。
なんの計算もしがらみもなくほほ笑んだあか毛が
きらきらと陽に透けて
とても美しかった。
こんな天使にほほ笑まれたら
誰が断われるのだろう。
マハネ・イェフダ市場へ買い物に行く途中
ゴミゴミした通りの上で
男の子の天使が3人
通行人に声をかけている。
天界も長い夏休みで暇をもてあましているのか
はたまたちょっとオマセな下界体験か。
「スリハ!」
「はい、小さな紳士さん、なんでしょう?」
「なにか飲みものを買いませんか?」
そのうちの知的な笑顔の少年天使が
脇の小さなテーブルの上を指差し
彼の後ろの二人はちょっと恥ずかしそうにはにかんだ。
テーブルの上には白い光りの中
水滴の滴るガラスのピッチャーが3つと
プラスチックのカップ。
「何があるんです?」
「アイスティーと、レモネードと、ソーダ水!冷たいよ!天国の味がするよ!」
「そりゃあすてきですね。じゃあ、冷たいアイスティーをくださいな」
「1つでいいですか?」
「はい、1つくださいな。いくらです?」
「1シェケル!」
「はい、1シェケル。ああ、冷たくておいしいね、天国のアイスティー。ありがとう!」
少年天使がママ天使に頼んで作ってもらったらしい
アイスティーを一口飲んで天国の味を楽しむ。
ポケットの小銭から1シェケルを取り出すと
はにかんでいる天使の一人の手のひらへ。
はにかみ天使はコイン一つ、穴の中に入れる。
ちゃりーん。
「どうもありがとう!」
自分たちで作った穴を開けただけの箱のレジ。
ポケットいっぱいの夢を買うエルサレムの天使たち。