ら~めんは懐かしい母の味
エルサレムでの食生活って、欧米などと同じようにやっぱりどうしてもこってりしたものになってしまう。日本だったら小腹がすいた時や簡単であっさりしかも何か汁ものでも、と思うような時ならば、インスタント・ラーメンだってローソンのおにぎりだって、角のおうどん屋へだってさらっと簡単に食べることができて。
でもエルサレムのファーストフードといえば、ピタパンに詰まったファラフェルやフライドポテト、はたまたはブレッカスと呼ばれるチーズやマッシュドポテトのパイ。クリームチーズの挟まったベーグル。まるで食は人を表すとでも言うのかな。ああ、何かもっとあっさりと食べたいなぁ。
そんなある日。新市街のど真ん中にある生協経営の大きなスーパーへ行ってみた時のこと。
何気なく乾物コーナーでパスタなどを手に取っていると、どことなく見たことのあるような大きさの四角い包みが目に入って来た。いやいや騙されはしませんぞ、と思いつつも、一袋、手にとってじっと目を凝らしながら袋に印刷されたヘブライ文字を読んでみると、「ぬ・ど・る・す」と読めた。そして袋の真ん中には英語で「Instant Noodles」と書かれている。
い・ん・す・た・ん・と・ぬ・う・ど・る?
いんすたんと・ら~めん?
ラーメン???
まさか?しかもコーシャーの?
袋の裏にはしっかりと「コーシャー」のマークが付いている。つまりこのインスタント・ラーメンらしき物には、豚やラードやその他の非コーシャーな原料が含まれていないということ。種類は野菜スープ、チキンスープ、ビーフスープの3つの味で、すべてがパラヴ(乳製品でも肉製品でもないもの)と表示されているということは、チキンもビーフも人口に付けらた味なので、もちろん健康には非常に悪そう。それでも今までインスタント・ラーメンなるものをエルサレムで見たことがなかったし、麺類大好きな私にはこれは試さずにはいられない。
そこでとりあえず、3種類一袋ずつ買って帰って、恐る恐る作ってみた。チキンスープ味のら~めんの袋を破ると、何から何まで日本のインスタント・ラーメンそっくりの波波の乾麺が顔を出す。いやいや、だからといって同じものとは限らんぞ、期待しすぎちゃダメよ。と自分に言い聞かせるように麺を茹でる。そして茹で上がったところに、スープの素の袋を破ると・・・・。
ああ、なんて懐かしい匂い!
なぜか思いもよらず、このインスタントな粉末のスープの匂いがまるで懐かしい母の味のように、きゅーっと脳裏を刺激して体がワクワクと踊りだす。
もしかしたらこれはいけるかも?!
なんて、淡い期待を抱いてしまう。
以前見つけて購入しておいた白いどんぶりに、出来上がった熱々のら~めんを移して、さてかんじんのお味のほうは?
ちょっとおっかなびっくり。
一口で「やっぱりね・・・。」とがっくり首をうなだれ箸を置く可能性も考えながら、お毒見のように麺を口に運んだ・・・。
「つる。つる。・・・・・うンまい!!」
これぞやっぱり自分の体にぴったりくる食べ物!それがどんなにケミカルで不健康でも、日本人の自分の体にはこういう汁気のある食べ物が細胞の一部なんじゃないかと思うくらい文句なしに「うまい!」そして「ほっこり」と感じられるもの。
この偉大なる発見によって、私のエルサレムでの食生活に大きな変化が起きてしまった。もう油で揚げたファラフェルやポテトなんて食べたくないし食べなくてもいい。サンドイッチもシャワルマも、もうバイバイ!コテコテ人生はもう結構よ。
これからは、ちょっとお腹がすけば君たちに代わって「しゅるんっ」と「ら~めん」なんて食べちゃうんだもんね。はっはっは。なぜかしらこれほど勝ち誇った気分になれちゃうなんて、やっぱり「食はアジアにあり」とはよく言ったもんで、たかがインスタントと言えども、されどら~めんは偉大だったのだ。
コーランを聴きながら鐘がなり、黒い帽子が急ぎ足。私はここではふはふとら~めんをすすっては、ほ~っと息をつく。ああ、幸せなら~めんの街、エルサレム。これに死海が温泉だったらよかったかな、なんて。