スーパー・エコノミカ
マハネ・イェフダ市場。
エルサレムの中心にある、イスラエルでも有名な青空市場。
肉屋、魚屋、パン屋、豆屋、香辛料屋となんでもあり、一日中、品物を売る大きな掛け声がスカーンとした空に響きわたる。
ここのよく行く雑貨屋の前には、店からはみ出したようにたくさんの品物が路にあふれ出している。穴倉のようなこの雑貨屋、日常に必要なものなんでもそろっているとご自慢のようだ。たとえば、泡のたたなさそうな岩のようにガチガチの手づくりオリーブ石鹸。イスラエル製なのになぜか「Hawaii」という名のシャンプー。擦ると火はつかないけど絶対に折れるマッチ。何度か使うとすぐにモロモロと、繊維が抜け落ちてペラペラになってしまう床拭きようのおおきな雑巾。ショッキングピンクのティッシュ。そしてカラフルなプラスチックの洗濯バサミ。
この洗濯バサミ。日本ではそんなにさっさと買い換えた記憶がないのだが、ここではけっこう新しいものを半年ごとぐらいに購入する。と、いうのも、ながーくアツーイ夏の間、その日差しはカーッと辺りが真っ白になるほどで、洗濯ものを干そうとプラスチックの洗濯バサミをつまむと、その光線にさらされてバキバキッと割れてしまう。では木製のものなら、と思い、そっちにしてみたがやはりカラッカラに乾燥して、これもまたバキッと折れてしまうので、結局は買い換えるしかないようだ。
こちらの建築は、外観は桃色のエルサレム・ストーンを使ったものが多くけっこう美しいのだが、床などもタイルなので夏場は結構過ごしやすい。しかし冬にはまったくといっていいほど向いていないのである。雨水が壁にしみこんだり、天井あたりから青緑のカビがモコモコと生えてきたりするのである。しかし掃除はいたって簡単で、床がタイルなので掃除機は要らないし、ササッとホウキではいて水ぶきをしておしまい。だが、やはり砂漠らしく砂が舞い込んでくることがよくあり、掃除してもしても追いつかないこともある。
雑貨屋へ行って床拭きようの大きな雑巾を数枚買って、店のおっちゃんに聞いてみた。
「床の掃除用の洗剤ってある?」
「おう、エコノミカやな。きれいになるで。」
このエコノミカ、漂白剤のようなツーンとするにおいと、酸性の感じの透明の液体。おっちゃんの言うがままに一本買って帰る。家に帰って拭き掃除。ふん、ちょっとはきれいになったかな。
それから数ヵ月後。洗面所のパイプがなんだかつまり気味のようなので、またまた雑貨屋のおっちゃんのところへ行った。
「パイプのつまりにはどれ?」
「おう、そりゃ、エコノミカやな。あっという間に通るようになるで。」
と、また一本、棚から持ってくる。
うーん、ほんとかい。だったらまだうちに前のが残ってたような気がするけど・・・・と、思いつつも一本ばか正直に買って帰る。とぽとぽぽ。洗面所のパイプに向けて流してみる。しゅわわわーっと、いかにも酸らしい反応を示した。
そして、冬。モコモコの壁のカビ。雨が降ると、てきめん、である。壁には青緑のカビと雨水のしみがにじんできた。酢が効くとは効いたのだが、そんな悠長な感じではないので、またもや雑貨屋のおっちゃんのとこへ懲りもせずに行く。
「壁のカビ、どうやったら取れるん?しみもあるけど。」
「おう、カビにはな、エコノミカが一番や!」
「・・・・・」
と、またまた奥から、今度は10リットル入りの大きなお徳用エコノミカを出してきた。
またかい・・・。でましたエコノミカ!
ここでおっちゃんに素朴な質問です。なんだかんだ言って、結局はこのエコノミカしか売ってないようだったら、一体なんのために、棚いっぱいにダックリンや、他の液体が並べてあるのよ?
「そりゃ、おねえちゃん。万が一って時のためによ。」
「万が一ってなに?じゃ、万が一のときに絶対に効くのはなによ?」
「えっ?ばかだな、おねえちゃん。きまってら、エコノミカよ。」
イスラエル国民がみな、この市場のエコノミカ信者のおっちゃんから買わされているわけではないはずなのだが、必ずといっていいほど、エコノミカは各家庭においてある。ということは、みながこのおっちゃんのようなエコノミカ信者なのだろうか。