Saturday, February 11, 2006

中東の空の下、聴こえてくるはあの歌声

テル・アヴィヴの南
ヤッフォーという古い港町に蚤の市がある

古い中東風の道具や
たくさんの忘れられたガラクタ
おっちゃんたちの野太い声
荷馬車の馬のひずめの音
甘いアラブ・コーヒーの匂い
イスラームとユダヤの祈りの声

民族と宗教の交差するエキゾチックな蚤の市の小宇宙
ここで見つからないものは何もない

1991年、湾岸戦争の直後、私はその町にいた
当時はまだ未熟な若い旅人で
京都の古臭いしきたり的な空気にうんざりしていたから
ふぞろいのひとつひとつが織りなす美しさと輝きに
右へ習えの日本なんてくだらないとさえ思った

太陽の明るい、開放的なこの国の何もかもが
若い旅人の私にはすばらしく映った

そんな雑多なヤッフォーの蚤の市
路上の古いレコード屋さんには
ノスタルジックな大きな蓄音機

そういえば、遠い昔
実家の蔵の二階にしまってあったなあ

その大きな古い蓄音機をあとに
地中海のほうへ蚤の市を進むと
とても懐かしいような歌声が背中から大きく響いてきた

その歌声に、一瞬
自分がどこにいるのかわからなくなった
カーッと太陽の照りつけるヤッフォーの蚤の市の真中で
立ち止まる

地中海のまとわりつく海風と
京都の盆地の湿気の記憶が重なる

自分の中の日本の心にはじめて気がついたのは
その歌を中東の限りなくブルーな空の下に聴いた時だった
その暑い中東の市場に流れてきたのは
遠い昔、子供の頃に聴いたこの歌だった


「上を向いて 歩こう
涙が こぼれないように
思い出す春の日 一人ぽっちの夜

上を向いて歩こう
にじんだ 星をかぞえて
思い出す夏の日 一人ぽっちの夜

幸せは 雲の上に
幸せは 空の上に

上を向いて 歩こう
涙が こぼれないように
泣きながら歩く 一人ぽっちの夜

思い出す秋の日 一人ぽっちの夜

悲しみは 星のかげに
悲しみは 月のかげに

上を向いて 歩こう
涙が こぼれないように
泣きながら歩く 一人ぽっちの夜

一人ぽっちの夜
一人ぽっちの夜」



そして二週間前だったか、エルサレムの夜
神戸の街とメールをしていると
15年ぶりにこの歌が流れてきた
エルサレムの自宅のFMラジオから、懐かしいこの歌が

思えば、あれからずいぶん遠くへ来たもんだなあ
またあの蚤の市に行ってみようか